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第5話 皇太子の返事

Autor: 운디네J
last update Data de publicação: 2026-10-24 00:00:33

「公爵様を狙ったのなら、私が代わりに落ちたんですか?」

伯爵はすぐには答えなかった。

その沈黙は、答えより重かった。ソユンは図面から手を離した。母が椅子の肘掛けを強く握っていた。安心できる話ではなかった。標的でなかったからといって、次は安全だということにはならない。

「座席表が変更されていた可能性もあります」

レオンが言った。

家令が顔を上げた。

「皇室の印が押された原本です」

「では、現場の配置が原本どおりだったか、確認する必要があります」

落ち着いた声だった。ソユンはその冷静さをありがたく思いながらも、不思議に感じた。馬車でタオルを整えられずにいた手と、同じ人の声だった。

伯爵は、しばらく一人で出かけないようにと言った。ソユンは同意した。その代わり、事故の調査については自分にも知らせてほしいと頼んだ。

「変な噂で先に知るのは、嫌なんです」

伯爵は長いこと娘を見た。

「そうだな。お前も知っておくべきだ」

子供をなだめるような約束ではなかった。ソユンはそこでようやく、肩の力を少し抜いた。

翌日届いたのは、調査報告ではなく皇太子からの手紙だった。

〈昨日お伝えできなかった返事を差し上げたく存じます。直接会うという条件は、あなたからお付けになったものですから、今回もお守りしましょう。〉

ソユンは最後の一文を三度読んだ。

直接会うという条件。

病気になる前にエリンが送った手紙を探さなければならなかった。彼女はまた引き出しを探った。本に挟んだ領収書まで調べたが、控えは出てこなかった。

レオンに聞いても、答えは変わらなかった。

「封をして送られたお手紙の内容は、存じません」

「誰が持っていったかは?」

「皇室の使者が直接受け取りました」

正式に送った手紙だった。冗談や恋文なら、使者まで来るだろうか。小説には、エリンが皇太子と特別親しいという話はなかった。

ソユンは爪の脇を押した。

知らない手紙のせいで皇太子を避けるのと、何も知らず会いに行くのと、どちらが危険か考えた。どちらも嫌だった。それでも一方なら、答えを聞くことができた。

今回は伯爵の同意を得て出かけた。レオンが同行し、馬車の後ろには伯爵家の護衛が二人ついた。

離宮ではなく、皇宮の小さな温室で会った。

アドリアンは先に来ていた。そばに書類綴りと、蓋をした皿が置かれていた。

「少しはお休みになれましたか?」

「少しだけ」

「嘘はお得意ではないようですね」

彼が椅子を引いた。ソユンは座る前に温室の出入り口を見た。アドリアンはその視線に気づいた。

「鍵は掛けません。外にはあなたの従者もいます」

ガラス越しにレオンが見えた。ほかの使用人と一緒に待っていた。ソユンが振り向くと視線を合わせ、先に目を伏せた。

アドリアンが皿の蓋を取った。

パンの代わりに、梨を煮たものが載っていた。

「宮廷医に、召し上がってよいものを聞きました。私が選んでいたら、見た目だけ立派なものになっていたでしょう」

正直な言葉だった。ソユンはフォークを取った。温かく、柔らかかった。香辛料が少し香ったが、喉には障らなかった。

「手紙を、もう一度見せていただけますか?」

アドリアンが彼女を見た。

「自分が何を書いたか、はっきり覚えていなくて。熱病のあとから、そういうことがあるんです」

彼は書類綴りを開いた。簡単には渡してくれないかと心配したが、封筒ごと彼女のほうへ押した。

「私のものだと言い張ることもできたのですが」

「そうなさらなくてよかったです」

アドリアンが笑った。

ソユンは封筒から手紙を取り出した。エリンの筆跡は、日記で見たものと同じだった。少し右に傾いた文字だった。

〈殿下からご提案いただいた縁談は、お受けできません。〉

フォークを落としそうになった。

顔を上げずに、次の行を読んだ。

〈ただし、これが父の意向として受け取られることは望みません。私自身の意思でお断りするものです。直接お目にかかって、お返事を伺います。〉

アドリアンは彼女が手紙を折るまで待った。

「思い出されましたか?」

「私……殿下との縁談をお断りしたんですね」

「まだ縁談というほどではありませんでした。母が可能性を探ったのです」

「それも、お断りしたんですね」

「実にはっきりと」

ソユンはもう一度手紙を見下ろした。エリンは嫌だと言える人だった。テオの言葉が浮かんだ。相手が皇太子でも変わらなかったのだ。

「お返事とは、何でしょうか?」

「承知した、という返事です」

彼女は顔を上げた。

アドリアンが軽く肩を動かした。

「断った相手を説得するために呼んだとお思いでしたか?」

「正直に言うと」

「そうすることもできたでしょう。私には都合のよい結婚でしたから」

その言葉に笑いはなかった。

彼はヴェイラ家が中立を守っていること、皇室が北部貴族の協力を必要としていることを簡潔に説明した。縁談の話をしながら、広げたのは貴族の家名を並べた名簿だった。

「では、なぜ直接お返事をくださろうと?」

「あなたが、ご自分の意思で断ったからです」

アドリアンは手紙の角を指した。

「父親の陰には隠れない、とおっしゃったでしょう。私も母の陰に隠れては、礼を失します」

「お断りしたあとでも、殿下にお願いをしていいんですか?」

ソユンは尋ねた。

「お願いの内容によるでしょうね」

「寄付金の記録を見せていただくことは?」

「あなたの家が出したお金です。私との縁談を受け入れなければ確認できないものではありません」

彼女は手紙の端を離した。紙に指の痕が残っていた。

アドリアンがそれを見て付け加えた。

「ただ、私の好意がすべて純粋なものだとは思わないでください。よく思われたい気持ちまで、ないわけではありませんので」

ソユンは笑いそうになって、こらえた。

彼は断る余地を与えながら、その余地を与えたのが自分だということは忘れさせなかった。優しさと計算を別々に持つ人ではなかった。どちらも彼の一部だった。

だから今度は、自分も少し正直に答えた。

「まだ、よくわかりません。殿下がどんな方なのかも」

「始まりとしては、悪くありません」

彼は返事を急かさなかった。

ソユンは彼を見る目が、少し変わった。

親切だから安心できる人ではなく、自分の望みを言葉にしてくれる人なのかもしれない。少なくとも今は。

「ありがとうございます」

「お礼は早すぎます。あなたからの、もうひとつのお願いが残っています」

もうひとつのお願い。

手紙の裏にも文字があった。

〈離宮の水門工事に関する寄付金の内訳を閲覧させてください。ヴェイラ家の名で支出された金額が、実際の工事内容に見合っているか確認したく存じます。〉

ソユンは紙の端をつかんだ。

水門。川の流れを調節する施設。

事故のあった離宮のすぐ下にあった。音楽会で見た流れを思い出した。

「会計にご興味がおありでしたか?」

彼が尋ねた。

「数字が間違っていると、気になるので」

ほとんど反射的に出た答えだった。

アドリアンの視線が彼女に留まった。

「以前にも、そうおっしゃいましたね」

ソユンは手紙を置いた。似ているところが見つかったと喜ぶことはできなかった。エリンが姿を消したという小説の記述が、何度も引っかかった。

縁談を断り、寄付金の内訳を求め、春の宴のあとに消えた女。

単に出番の少ない脇役だと思ったことが、間違いだったのだろうか。

アドリアンは空の皿をどけながら袖をまくった。手首に赤い痕があった。昨日、水の中で負った傷だという。

「助けたお子さんは、大丈夫ですか?」

「今では私よりよく食べています」

彼は笑った。

「私の服に吐いてしまったことを気にしていたので、服の代金は大人になってから返すようにと言いました」

「本当に?」

「そうしたら泣きやみました。謝ったところで、私に殺されると思っていたようです」

ソユンも笑った。うまく笑おうとしたのではなく、自然に出てきた。

アドリアンはしばらく言葉を止めた。

彼女が口元に触れると、彼のほうから視線をそらした。

「よかった。今日初めて、少し怯えが薄れた顔をされました」

その言葉に、意味もなくフォークを取り上げた。皿は空だった。

アドリアンは見なかったふりをした。

帰る前、ソユンは川での出来事を尋ねた。彼は子供を連れて階段を上がっていたとき、橋の下から誰かがソユンを押し上げるのを見たという。

「どんな人だったか、覚えていますか?」

「白いシャツでした。暗い色の上着は脱いだか、流されたのでしょう」

全員、白いシャツを着ていた。

新しい手がかりを得たのに、誰の名前も消せなかった。

彼がドアを開けてくれた。近くをすれ違った襟の内側に、赤い線が見えた。輪のように曲がった形だった。ソユンの視線が止まると、アドリアンは襟を整えた。

「まだ、気になることが?」

彼女は答えを探してから、手紙を持ち上げた。

「これは持ち帰ってもいいですか?」

「控えを残すという条件で」

ソユンはうなずいた。彼はすぐに使用人を呼んだ。

馬車に乗る直前、皇太子が彼女をもう一度呼び止めた。

「エリン嬢」

彼女は振り返った。

「次は、用件がなくてもお会いできますか?」

さっきより軽い声だった。だから、かえって答えにくかった。

ソユンがためらうあいだに、背後でレオンが馬車のドアをつかんだ。

その手の中で、金属の取っ手が短くきしんだ。

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